マイナス35℃の朝、マヌルネコに会えた 厳冬期の1月モンゴル

突然の寒波で予想外のマイナス32℃からはじまったモンゴルの旅。

マヌルネコとの予想外の距離、ユキヒョウを待つ静けさと寒さ、ラクダ乳の文化。そしてその世界の中で、私の耐寒経験値は爆上がりした。マイナス30度の世界の自然観察における、新たな寒さ対策運用について、書き残す予定です。

モンゴルの冬は、知っていたマイナス20℃台の寒さと違った。

到着したのは2026年1月15日。日本からウランバートルへ飛び、トゥール川近くのホテルに向かった。

空港でガイドと合流した時、開口一番こう言われた。

「今日は今年いちばんの寒さです」

その言葉の意味をすぐに身体で理解した。外は吹きっさらしで、気温は−32℃。本当は「最高でも−25℃くらい」と聞いていた。なのに初日からいきなり記録更新。冬のモンゴルは、こちらの想像や準備を、軽く飛び越えてきた。

雪も今年はよく降ってるらしい。そして私が最初に驚いたのは、雪の量や寒さよりも、もっと身近なところだった。

車の窓が凍っていた。外側ではなく、内側が一面。暖房の入った車内なのに、窓の内側に霜が張る。息をすると、ふっと曇りが広がる。触れなくてもわかる、空気の冷たさの“濃さ”。こんな感覚は初めてだった。

街に近づくと「少し暖かくなりましたよ」と言われ、外気温が−30℃になったという。暖かくなったのに、−30℃。この国では数字が持つ意味が違う。ずっとマイナスの気温だから、話してるときはマイナスは言わない。それは寒い国、場所ではどこでも過去もそうだけど、数字が今までにない大きさで感覚がおかしくなる。

ホテルは、暖かさがすべてだった

ホテルに到着して、私は小さな安心を得た。部屋は暖かい。これだけでありがたい。極寒では本当に“命綱”だ。

身体が寒くなく、眠れる場所がある。それだけで十分だ。

……と言い聞かせつつも、その夜は心が落ち着かなかった。

実は、翌日の準備をしていて三脚の上の部分、望遠鏡を載せる接着部分の雲台の中心軸が壊れているのに気づいた

旅に出る直前まで機材を整えて、寒さ対策をしたのに、初日でいきなり“壊れる”。

寒い国では、いろんなものが壊れる。それは体験していたから、頭ではわかっていたのに、着いてすぐにその事実に心が揺れた。以前、3月のラップランドでカーボン三脚の脚が普通に立てた際に突然折れて、ショックを受けたことを久々にリアルに思い出した。私の持ち物はアフリカの暑さにさらされて、時に極寒地にも行くせいでどうしても壊れやすい。仕方ないと思いつつ、せっかく持ってきたのに、どうして使う前なの?とため息。動揺と興奮が相まって、なかなか眠りにつけなかった。

実は、空港について嬉しい情報もあった。「マヌルネコが見つかったので、明日はそこに直行します。」

翌朝。

Googleで見た気温は−35℃、体感は−40℃と記載。晴れて太陽からの日差しは美しいがとても寒い。空気が刺さる。

冬のモンゴルは日の出が遅い。

1月16日の日の出は8時37分。いなくなった馬を探しに行って偶然マヌルネコを見つけ連絡をくれた遊牧民の協力者と合流し、暗いなか昨日いたその場所に直接むかう。しばらく二手に分かれて探索。

その後、しばらくして「マヌルネコが見つかった!」と連絡が入り急行する。

ガイドも私たちも外で探していたのをやめ急いで車に乗った。ガイドは慣れてるはずなのに、全力投球でその場所に向かおうとしていた。その様子をみて、よっぽど観察は難しいんだと感じたと共に、本当に会えるかもしれない! でも落ち着こうとも感じた。

マヌルネコはユキヒョウより見つけるのが難しいと聞いていた。どちらも隠れるのがとても上手いし、そもそも見えないと。マヌルネコは小さいから特に難しいという訳だ。

マヌルネコの観察は、みつかったら目を離さないのが基本だと説明されていた。冬は夜明けと共に齧歯類を求めて雪原を歩いているという。しかし、人に気づいたら近くの岩山に隠れるか、伏せて身を低くし見えなくなってしまい、見失うことが多いという。

私はまだ、実感がないままだった。

「本当にそんなに近くで見られるの?」と半信半疑だった。

車の前方に目を凝らしながら、胸が熱く高鳴った。

そしてマヌルネコはいた。遠くからしばらく眺めていた。

そのあと、雪原でマヌルネコとの距離感が崩れる瞬間があった。

そこで起きたことは想像していた「雪原で静かに観察」とは違う、予想外の展開だった。

細部はここでは書かないけれど、予想してないことが起こった。

だからこそ、私たちは静かに見守った。

すると不思議なことがまた起きた。

こちらが何かを「しよう」としなくても、距離感が変わる瞬間があった。

マヌルネコは、私が想像していた“野生のネコ”と違っていた。

野生のネコ科は、ベンガルヤマネコ、マーブルキャット、サーバル、カラカル、チーター、ヒョウ、ライオン、クロアシネコを観察してきたが、どれとも今回観察した時間はほんのわずかだけども生態が全く違った。それはそうだ、なんといっても、ここの冬は極寒。熱帯の生き物とは別もの。

マヌルネコに出会うなら、冬毛のステージで会いたかったのだが、それがかなった。かけがえのない時間で、リアルに目の前にもふもふなネコが静かにいた。

雪の上でふわっと光を受ける毛。

低い体。丸い顔。

そして、目。

目つきはいかついが、身体は思ったよりずっと小さく、少し太ったネコレベルだと感じた。

この時の光を、私は忘れないと思う。

柔らかい日差しがマヌルネコを照らし美しかった。そして、寒さが指に集中して痛かった。

それでも、私は思った。

ああ、来てよかった、この出会いのために私は来たんだと。そしてモンゴルに着いあばかりだけどもう満足した、帰ってもいいと。そのくらいの満たされた幸せを感じた時だった。

旅の夜。

モンゴルの冬は、明るい時間が短い。およそ9時間だった。体感として、1日がぎゅっと圧縮されている。外にいる時間が終わると、夜は長い。

夕食後に、温かい、いや時に暑すぎることもあるゲルで写真を見返し、図鑑や今日の観察の記録を確認したり、SNS投稿したり(音信不通になるかと思いきや、バリバリ電波立つ、日本と変わらない通信状態)翌日の準備をする。今日の防寒をふりかえり、何を足すか。何を引くかベッドの上に広げて服装を改めて考えた。手袋の組み合わせをどうしようか? カイロは、貼るカイロ1つを腰に、普通カイロ2つをパンツの左右の太もものポッケから、手袋の手首にそれぞれ移動して入れたり、一つ減らしてみたり試した。

極寒の旅では「その日の終わり」は、次の日の始まりにつながっていて、毎日整えることで、旅が続いた。

マヌルネコに出会えた。

それだけで、私の中ではもう充分に大きな旅だった。

次回予告

ユキヒョウ編へ。

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橋場みき子

生きものに出会うために自然の旅に出かけてその環境の動植物を観察してメンバーと気づきを共有し楽しむのがライフワークです。自然の旅はリクエストに応じてご案内もしますし、自分が行きたい場所、出会いたい生き物の情報がが入ってくれば、声をかけて二人でも、いなければ一人でも出かけます。今年は新しい情報、人との出会いが多く違う世界が見えてきました。同じような感性の方と出会いたい。そのためにはどうしたらいいのか?を最近よく考えています。

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