朝5時半、およそ毎日、顔が冷たくて目が覚めた。冬用の厚いフェルトで覆われたゲルの中にいるが、ストーブの火が落ちて一気に室内が冷たくなっている。
そういう時用の、電気ヒーターをつけて、もう一度布団に潜り込む。そして気づく。昨日は平気だったのに、今日は寒い。まき(石炭)ストーブの調整出来ない、難しい。
冬のモンゴルは「寒い」だけじゃなくて、日によって、時間によって、こちらの体感を簡単に変えてくる。寒さが一定じゃない。室内でも慣れるまで難しく感じた。
それでも8時頃には遅くとも寝袋から出て、9時から朝ごはんを食べて、10時に出発。
帰りは17〜18時。戻ったらすぐ夕食。
日の出は8時半頃、日の入りは17時半頃で、明るいのは9時間くらい。
冬のモンゴルでは、この生活リズムで過ごした。
この旅で私が驚いたのは、動物との出会いだけじゃなかった。
「暮らしそのもの」の濃さが、想像以上だった。
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ラクダ農家の夫婦の笑顔で、旅の空気が変わった。
南で出会ったラクダ農家の夫婦が、ずっとニコニコしていた。
大げさじゃなく、それだけで救われる気がした。
モンゴルの遊牧民の暮らしは、何度も目にしていたが、正直“遠くにあるもの”として見えていた。
でもこの日は、ふっと近くに感じた。言葉が全部わからなくても、相手がこちらを歓迎してくれていることが伝わってきた。
「5回目のモンゴルの旅にして今回の旅で初めて、モンゴルの遊牧民の人と交流した気がする」そう思えた。
そして、そこでいただいたのが――
ラクダの乳の“フルコース”。
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ラクダのミルクティーが最初だった。ミルクが胃にもたれるから普段日本でも飲まない自分。いつも遊牧民宅では恐る恐る飲んでるが、器もきれいで、ほんのひとくち、口に含んだら、いつもと違って癖なくサラッとしていたので、飲めてしまった。この時、いつもと違うと感じた。
その後、敷地内で探鳥させていただき、戻って室内をお借りして持ってきたランチを食べた。
羊肉を大鍋で茹でて下さり、それもいただいた。その後に歓談してたらラクダフルコースになった。
話をしていて、さっきのミルクティーの乳はラクダの乳だと初めて知った。ラクダのミルクは多分初めての経験。
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ラクダ乳酒は、飲むヨーグルトみたいだった。恐る恐るこれも口にしたが、さらっと、美味しく飲めた。
モンゴルで馬乳酒は有名だか、馬乳酒ではなくラクダ乳酒。夏は馬乳酒、冬はラクダ乳酒なんだとか。ラクダの乳を作って作ったお酒。諸説あるけど、冬に飲むと体が温まるそうだ。
飲みやすい。クセが強いどころか、やさしい。基本、私は、クセのあるものが苦手。偏食気味なのは自覚してるが、パクチーや春菊はできれば食べたくないレベル。
ラクダ乳酒は、口に含むと、ふわっとヨーグルト風味が広がって、喉の奥にすっと落ちていく。
寒さで強ばっていた体の中が、少しだけほどける感じがして、注がれた分を全部飲んでしまった。
「モンゴルの乳製品」は、正直、今まで“酸っぱい”“硬い”“独特”という印象で、食文化であって、美味しいものではないよねと思っていた。でも、これは違った。「また飲みたい」と思う味だった。
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そして衝撃だったのが、ラクダのアーロール(aaruul)。
アーロールは、乾燥チーズ。乾燥した乳のかたまり。モンゴルの保存食の代表格だ。
私はアーロールをこれまで何度も食べたことがある。でも正直、硬くて酸っぱくて、どこでも苦手だった。文化を体験する食べ物だと思っていた。
ところが、この日のアーロールは違った。
作り立てなのと、上手い作り手の技で全くの別物で、食感も香りも、やさしい。外側はパリッと中はソフトで、口の中でちゃんと“乳の味”がする。口の中で溶けていく。変なクセがなく、むしろ軽い甘さみたいなものすら感じる。
気づけば一口しか食べたことのないアーロール一個を完食し、おかわりもした。
5回目のモンゴルにして初めて、「アーロールは美味しい!と思って食べ切った」。自分でもびっくりだった。
それがラクダ乳由来なのも、作り手がとても上手いのも、作りたてのタイミングだったのも全てよかったのだろう。
文化的食事を本当に美味しいなぁと思って頂いたのは、フィンランドのトナカイのシチューぶり。作り手によって文化的食事は大きくそのおいしさを変えることは知っていたけど、久々にそれを体験した。
お土産まで頂き、帰国までに会いそうだと思って赤ワインも買って一緒に食べて楽しんだ。乳製品は持ち帰れないので、食べきれない分はガイドに託した。
遊牧民宅で普段食べない乳製品をそんなに食べてあとでお腹が大丈夫か? と一瞬心配にはなったが全く問題なかった。
「ああ、これが“美味しいアーロール”なんだ」と体が覚えた日だった。
モンゴルの乳酸菌が一時的でも体で元気に役に立っていたはず。
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ラクダの蒸留酒は“危ない酒”
さらに出てきたのが、ラクダの蒸留酒。
これは、危ない。
スイスイ飲めてしまうもので、
盃に半分くらいで気持ちよくなってしまった。飲みやすくて、本当にすいすい飲めそうだった。
「危ない酒」という言葉が冗談じゃないとわかった。
寒い場所って、体が縮こまっているせいか、少しのアルコールでも回りやすい気がする。
温かいものが体に落ちると、それだけで安心してしまう。
ラクダミルクティー、アーロール、ラクダ乳酒、蒸留酒。ラクダの乳の世界だけで、こんなに種類がある。
「あとラクダの干し肉まで食べたら、本当にフルコースだね」
そう言われた時、なんだか笑ってしまった。ラクダづくし! ラクダの乳がこんなに美味しいと思わなかったし、栄養価が高いとも知った。
「ラクダを飼うのに難しいことはありますか?」と質問したら、ヤギやヒツジと違って寒さに強いからないよと。運動量が多いので管理が大変だとはガイドから聞きましたが。
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北のウランバートル近辺でではなく、南ゴビのラクダ農家が作る、アーロールで出来立てだから美味しいのだとも聞いた。
搾った乳をそのまま長期保存できないから乳を保存できる形へ変える文化が発達してきた。
アーロールはその象徴。
工夫が積み重なって食文化になる。モンゴルの乳製品の多様さは、暮らしの必然だった。
それを実体験して知った冬のモンゴルだった。出会いに感謝だ。ご夫婦が、オレンジ色でコーディネートされた服装でいた。ベストカップル賞を受賞したこともあると聞いた。素敵な写真を見せていただいた。ご主人とは、Facebook友達にもなり、みんなで記念写真も撮った。そんなことをしたのも初めてだった。

2月初旬にラクダ祭りが毎年あるそうで、来年その頃に再開できないかと考えてる。
興味のある人は知らせて欲しい。
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次回予告
防寒対策の運用について。準備と失敗と日々の改善

