タンザニア北部には、アルーシャ国立公園、タランギーレ国立公園、マニヤラ湖国立公園、ンゴロンゴロ保全地区、セレンゲティ国立公園と5つの違うサファリを楽しめる場所がある。
ンゴロンゴロ保全地区は、マサイ族の人が元から住んでいるので、国立公園ではなくコンサベーションエリア(conservation area)保全地区という名称になっているが、基本、仕組みは5カ所全て一緒で、公園に入る際にはチェックインが必要で、人数や国籍の確認がある。入園料は人気のあるンゴロンゴロ保全地区とセレンゲティ国立公園が高い。
話が逸れましたが、今回は5つの場所の特徴を紹介します。全部に行くのは、滞在日数が少ないとそもそも無理だけど、タンザニアまで行くならぜひ行って欲しいと思う。なぜなら、それぞれ環境が異なり、生きものとの出会いも違うから。よく使われるようになった多様性という言葉を実感できる場所がアフリカであり、タンザニア北部で5箇所のサファリをしたら、それを自然に感じることができるでしょう。景色も異なるので、訪れれば、人によって心に深く刻まれるシーンもきっと違うはず。広大な景色と光がおりなす美しいあなたのお気に入りの場所を探して欲しい。
アルーシャ国立公園
キリンが見やすい
草食動物天国なこの公園で他の公園に比べて見やすいのがキリン。ここの公園ほどリラックスしているキリンを見ることはない。他にもウォーターバック、シマウマ、イボイノシシなどが、ピリピリせずに自由に走り回ってる空気感が私は好き。この公園に最初に行くので動物は全てそうなのかと勘違いしてしまうが、他にいくと改めて気づく。
いわゆる、大きくてかっこいい動物がいるわけではない。だけど、肉食獣がいないと(実際にいないわけではない、過去にサーバル、ヒョウを見たことはある)こんなにも草食獣はリラックスできるのかと体感できる公園。
アビシニアコロブス
樹上性で、出会う時はほぼ群れで出会えるアビシニアコロブス(白と黒の2色の背中にマントを被ったようなオナガザル)に出会いやすいのはここ(キリマンジャロ国立公園にもいるというが、私は出会えたことがないので)。毎回出会えないけど、食事時間等に遭遇できれば、ゆっくり観察できるし、2月は小さい子連れのことが多い。鳴き交わす声が優しい音で印象的だったけど、残念ながら音としての記憶はもうない。
まとめ
湖があるので、フラミンゴなどの水鳥も多く、他では出会えない鳥にここでは出会えるのも嬉しい場所。キリマンジャロ空港から一番近い公園で、いつも半日しかサファリをしていないけど、もっと時間をとっていいのかもしれないが、他との比較で半日になるが、しっかり観察すると奥の深い公園。適当に流して車を走らせていたら、印象の薄い公園。
タランギーレ国立公園
アフリカゾウの楽園
タランギーレ川のある、広大な公園で、ゾウの群れが多い。なぜならゾウは水が他の動物より必要で、水を求めて移動するから。ここでは、とてもリラックスしているゾウの群れに出会うことができる。採餌中の群れならば、エンジンを切って、静かにしばらく待っていれば、大抵はゆっくり観察させてくれる。群れの中には小さな赤ちゃんもいることが多い。最初は群全体で守るように隠しているが、だんだん姿を表す。その守り具合も見ていて本当に愛おしい。雨の多い年なら、水が溜まってできた一見すると小さい湖みたいな場所で、群れで水浴びを気持ちよさそうにしているのが見られるでしょう。また、反対にタランギーレ川の水が無くなった干からびた川底の砂を掘って、地中から水を飲むゾウを見たこともあります。
巨木のバオバブ
この公園はバオバブがたくさんあって「夜に樹が歩いていそう」と過去に言った方がいたけど、本当にそんな感じに見えます。バオバブは樹形が美しく文句なくかっこいいので、サファリ中はタイミングがあえば「バオバブとゾウ」「バオバブとダチョウ」などの動物との写真が映えます。公園入り口の近くにある宿は、大地溝帯の上にあるので、下に広がる一面の樹林帯を見下ろす景色が見られ、最高に気持ちがいい場所です。森の木々が見渡せ、その中にタランギーレ川も見え、動物も小さく見える。遠くにはアカシアの森も広がり、花の開花にタイミングが合えば、白い花が一面に咲いていて、それはそれは美しい広大な景色を目の当たりにするでしょう。公園入り口に大きなバオバブの巨木があるので、記念撮影もできます。バオバブをよく見れば、乾季に水がなくて、水分を多く含むバオバブの樹皮をゾウが剥がして食べた跡なども見られます。
まとめ
川があって水が豊富で樹林帯もある公園でここも鳥が多い。公園入口の歩いて動ける場所には、ルリゴシボタンインコ、中型サイズのキツツキ、アカハシコサイチョウなどを近くで見るチャンスがあるでしょう。地味な鳥ですが、タンザニアの固有種ハイイロオナガテリムクはここではよく見かけます。サファリ中は、多くの人が見たいという美しい大型の水鳥、クラハシコウのチャンスもあります。また、この公園でかつて一度だけオオミミギツネの群れに出会ったこともありました。注意点としては、大地溝帯の下にある標高の低い場所の公園で、5ヶ所の中で最も暑く、水場が多いのでツェツェバエも時に多い場所です。
マニヤラ湖国立公園
鳥が多い
マニヤラ湖という大きな湖がある公園。しっかりとした森が残っていて立派な樹林帯があり、そこを生活の場としている大型の鳥に出会えることができる公園。例えば、ミナミジサイチョウのファミリーに出会うことが多い。オス、メス、子供たちの外見に違いがあり、よく見れば親子だとわかるはず。歩きながら餌を探している。しばらく見ていると、餌をくちばしでつまんで上に投げて口に放り込む独特な様子も観察できる。ギンガオサイチョウという大型のサイチョウもここではよく見かける。大きな声で鳴くので、そしてペアで移動するの見つけやすい。色合いは黒ベースで一見すると地味かもしれないが、独特なくちばしをもち、カッコよくかつ美しい鳥なのでぜひ出会ってほしい鳥です。また、大型のフクロウ、クロワシミミズクもわかりやすく止まっていることがあります。
狭い道がポイント
公園の入口からしばらくは道路が樹林帯の中を通っているのですが、スペースが狭いので、動物が至近距離で見ることができるチャンスのある公園です。ゾウが道路に出てくると、もうすぐそこに見える感じで大きさに圧倒されることでしょう。また、樹林帯の木陰で、カンムリホロホロチョウを何度か観察しています。他では見たことがないので、この環境が好きなのだろうと推測しています。
まとめ
入口からの近くにある川や水のたまった水場などがあり、水の多い時は水鳥が多く集まっている。世界一大きいサギ、オニアオサギ(全長最大150cmくらい)のチャンスもあります。またカワセミの仲間も比較的この公園では見やすいでし、オウカンエボシドリなどのチャンスもあります。川には水飲みに小鳥が降りていることがあるので、サファリカーで走る時も注意してみるとコウギョクチョウやオナガカエデチョウなどに出会えるかもしれません。鳥のことばかり書いてきましたが、大型哺乳類は少なめです。でも、サバンナモンキー、サバンナヒヒ、ブルーモンキーなどがリラックスしているのを近距離で見ることが多いです。サファリカーが多くないので、混雑と無縁な感じの公園なのも良い点のひとつで、のんびりサファリをしたい時にちょうどいい場所です。セレンゲティ国立公園の乾いた大地から帰ってきてこの公園に立ち寄ると、水場のある環境がとても気持ちよく感じられます。また、樹木に興味のお持ちの方は、ここの公園がおすすめです。いい巨木が残っています。
ンゴロンゴロ保全地区
多様な環境と動物たち
火山の大噴火口の底に広がる場所に、サバンナ、森林、湖、川などの様々な環境があり、そこに多くの動物が生息している。ここでは、ライオン、アフリカゾウ、カバなどの大型哺乳類との出会いが容易だ。およそ、誰もがサファリを楽しめる場所がこのンゴロンゴロ・クレーターでのサファリだと思う。ンゴロンゴロ保全地区は実は広大で、大噴火口の底、クレーター部分は大阪府くらいの広さで公園の数パーセントでしかないが、その狭いところにぎゅっと集まった、文字通り濃縮されたような密度の高さで野生動物たちの生活を見せてもらうことができる。
ライオンが見やすい
クレーターの狭い中にライオンの密度が高いせいもあると思うが、日差しを避けるものがないサバンナで日除けがわりにサファリカーを利用することを覚えたライオンたちがいて、車の隊列に近寄って影で寝だす。リアルのライオンに近距離にいられるので、サファリカーもしばらく動かずじっとライオンを見ている。そしてそれに近寄ってくる別のサファリカーがひっきりなしにくる。かくしてライオンたちは、エンジン音と人の声を気にしなければ、暑くなく過ごせて、よく眠れると覚えてしまったのだろう。いずれにしても寝ているライオンをよく見かける。オスのライオンを見たいとリクエストされるが、オスは群から少し距離をおいて離れている。そしてたてがみが立派なライオンはそれほど多くない。
まとめ
5箇所の中でこの場所でしか出会っていない動物がいる。クロサイとカラカル(ネコ科)だ。クロサイの方が体の一部しか見えないこともあるが、まだ出会えるチャンスは高い。強風だと風を避けるためにしゃがんでしまい、出会いにくいので、風の強くないことを祈るしかない。カラカルの方が出会いは難しい。見かける場所はほぼ同じなので、その日、自分だちが通るその時に隠れ家から動いて出ていてくれるのを祈りつつ探すしかない。他に特筆すべき点として、ヌーの出産や生まれたばかりの親子ペアをここではよく見かける。子が乳を飲む様子、生まれたばかりの子をなめる母の様子をみているのもいい、優しい気持ちになれる。
鳥は、ベニバラツメナガタヒバリのチャンスはここ。サバクヒタキ、ヤブヒバリの仲間の鳥も多数いる。大型の鳥、ダチョウ、アフリカオオノガン、アフリカハゲコウ、ホオジロカンムリヅルをはじめ、他にもたくさんの鳥に出会える。鳥も観察するなら2日サファリをしても十分楽しい鳥好きにはたまらない楽園。
セレンゲティ国立公園
広大な公園で様々なチャンス
これぞサバンナという広大な場所で、いつきても様々な動物たちとの出会いがあり、毎回全く違うその出会いに生きものの多様性の意味を深く感じる場所。哺乳類の種数も最も多いし、大型哺乳類でいったらトピ、ハーテビーストなどがここまでくると出会える。ウシの仲間のレイヨウは、サバンナを代表する生きものだと思うが、大小様々な種に出会え、最も大型種のイランドもここか、ンゴロンゴロからの途中に出会えることが多い。鳥もシャコの仲間、猛禽類が多種出現する。
景色がいい
いろんなところに行ってきたけど、ここの景色は本当に素晴らしいと思う。朝と夕方の光の洪水みたいな日の出、日の入りの時間帯は、サバンナの草に光が差し動物がいればそれはもう、とてもフォトジェニックで美しい。朝日にやけて赤く染まった動物も美しいし、夕日にシルエットで映る鳥の姿もたまらない。その時間帯は、朝のサファリでスタートしたばかりだったり、宿へ急いで戻っている時間なので、落ち着いて写真を撮ったことはないけども目に焼きついている。朝は宿の展望台に暗いうちに上がって、朝日が登るのを眺めれば、太陽があっという間に上がり、赤く大地が染まり黒い夜の世界からの変化を目の当たりにすることもできる。そんな体験もおすすめだ。
まとめ
セレンゲティ国立公園でのサファリも、何に出会えるか全くよくわからない。チーター、ヒョウ、サーバルはここで一番出会える。ライオン、サーバル、チーターのハンティングはこの公園で見たことがある。その瞬間は、本当に一瞬で驚きだった。ライオンが顔を真っ赤なまま草の中から突然出てきたこともあったし、ほとんどの年が木の上にいるヒョウしか見られないのだけど、小高くなっている場所で足を前に出してくつろいでいるのを見かけたこともあったし、水場に急に出てきたヒョウに出会して驚いたこともあった。ヘビクイワシが立て続けに出てきた年もあったし、ヘビクイワシが道路のすぐ脇の木の上で営巣し大きなヒナを見たこともあった。ハーテビーストの群れのトップとライオンの群れの攻防も興味深かった。というわけで、いろんな世界がセレンゲティには広がっていて、毎回何かがそこで始まるのを目撃することになります。
おすすめ
タンザニアにサファリの旅に行くのなら、ンゴロンゴロ保全地区とセレンゲティ国立公園は行くのだろうと思う。いくら短い旅でも、ンゴロンゴロは外さないでしょう。セレンゲティも行けるに越したことはないが、アルーシャから片道6〜7時間程度は少なくともかかるので、日程の短い弾丸ツアーだと移動だけで終わってしまい、動物を探してサファリをすることはできなくて、ただ行っただけの苦行で終わることになるだろうから全くおすすめしない。
フライトの到着時間が午後で、初日は遠くの公園まで行けないような状況ならアルーシャ国立公園内やそばで泊まって、翌日キリマンジャロ山の朝焼けを見て半日サファリをするのがいいと思う。アルーシャの街で泊まるよりはるかにおすすめです。
マニヤラ湖国立公園とタランギーレ国立公園の二つのうち、一つだけ行くとしたらどっちがいいかは、難しい選択で、アドバイスするならば、タランギーレ国立公園は時にツェツェバエが多い。虫が嫌いで、日本でもよく虫に刺されて腫れるような人や、そういう虫との遭遇は極力避けたいという方はマニヤラ湖を選択するといいと思う。ただ、個人的にはタランギーレが好きだ。欧米人のようにロッジで景色を眺めながら読書して1週間過ごしてみたいと思ったりもするくらい、ロッジから見える景色が好きだし、ゾウの群れやたくさんの鳥たちがいつも出迎えてくれるから大好きなので、ぜひ多くの人に体験して欲しいとは思う。
5つの公園の他に、もう一つ、キリマンジャロ山国立公園もキリマンジャロ国際空港の東側にある。アフリカ最高峰のキリマンジャロ山(5,895メートル)に登らなくても、樹林帯の散策をするこはできる。3回しか経験もなく、かついつも短時間の滞在で紹介できるほどの経験がないので今回は紹介しなかった。アビシニアコロブスがいるとも聞いているが、一度も会えたことはない。ただ、一つ確実に言えることは、樹林帯の中を自分の足で歩けるので、植物が好きで見たい人にはここに来るのがおすすめ。
さいごに
これまで経験してきた観察目線でお伝えしました。ただ、生きもの観察に絶対はなく、諸条件によって書いたように見られないこともあると思うので、それは承知のうえ参考にしてほしい。でも少なくとも各地10回以上は訪れて見てきたことで書いています。
そして、なんといってもドライバーガイドの腕がとても重要で、ただ運転だけするような動物を探さない(探せない、又は探す気がない人もいるでしょう)ドライバーだったら、出会いは圧倒的に少ないことは明確です。サファリは、ドライバーガイドの資質も大変重要ですし、彼らの能力を最大限に活用できるようなスケジュールも大事です。なんといっても動物を探し続け、運転し続けるのはとても大変なことだからです。私たちの命も文字通り預けているわけですし、優秀なドライバーがいるからこそ、初めて楽しく安全にサファリを楽しめる条件が整います。
それから、書いている内容は、1月下旬から2月上旬に訪れて観察した内容で紹介しています。時期が違うと異なります。日本の夏は乾季に当たるので、全く違う様子となります。
*写真も入れてご紹介予定でしたが、写真は後日に入れますね*