旅のきっかけ
熱帯雨林の優占種、フタバガキ科の樹木が、
2010年ぶりに、
広範囲にわたって一斉開花し始めたことを今年の3月に知り、
種の落ちる頃に行きたくなりました。
花の開花後、
結実してすぐの頃は、
がくが伸びて出来た翼のような部分の色は、
赤、黄色、緑、クリーム色と種によって色とりどりなのですが、
時間が経ち、
その翼の部分が茶色に変色、乾燥し、
実が木から離れると、
その部分がプロペラの役目をして、
くるくると回って、
実は落下します。
その頃をねらって、
マレーシアのボルネオ島、サバ州に再訪しました。
でも、時期は紙一重で、
およそこの時期だろうと、
現地の情報を元に訪れる時期をGW頃に決めましたが、
大雨が降って、実が早めに落ちてしまうかもしれないし、
動物が食べてしまうかもしれないし、
結実した樹木が林道沿いになければ、
木に近づくことは難しいかもと聞いていて、
本当に見られるかどうかは、
行ってみないとわからないという、
いつもの動植物を探しにいく旅と変わらないような、
いえ、それよりも初めてのことで経験値がないので、
想像不能で、
不確定の条件ばかりだけど、行かないことにはチャンスは無い!と思って、
いつもより不安をかかえたまま、幸運を祈って、現地に行きました。
そんなギャンブルな旅に、
賛同してくれた同行者に感謝です。
フタバガキの実はどこにある?
フタバガキの樹の高さは、
低くて30メートルくらい。
高いと50~60メートルくらいとかなり高木。
そのため、実が落ちても、
木のそばには落ちていない。
行ってみてわかったのですが、
木はたくさんあるけど、
実を見つけるのは難しい。
そもそも車道から中に入っていけないという理由もある。
フタバガキの実の探し方
1、車で走りながら、上から落ちてくる実を探す。
2、車で走りながら、すでに道路に落ちている実を探す。
3、車で走りながら、実がなっていそうな木を探して、双眼鏡で確認して、フタバガキの実がたくさんついているのを見る。
4、歩いて入れる森の中に入って、落ちている実を探す。
という方法となりました。
探して見てわかったこと
1、落ちている実のそばに樹はない。
2、茶色の実が落ちている時は、かたまって落ちている。
風に流されて、ちょうどその場所にたまるのか、落ちている時は、必ずいくつも落ちている。
3、かなり強風が吹かないと、実は落ちない。
たまたま、落ちてきたのを見て、ここには落ちる可能性があると踏んで、風が吹くのを待ち、落ちてくることに期待したが、だめだった。
4、森の中に、泥でぐちゃぐちゃした場所が数カ所あったが、そこに発芽個体を見た。
目がすこし出ている種は、いくつか見かけたが、しっかり地面に根付いて葉が出ているような個体はそれだけだった。
5、発芽個体は、プロペラ上に伸びた「がく片」を外して葉を出していた。
6、樹高1.5m~2メートルくらいの細いフタバガキの木は、それなりに森で見かけたので、発芽・成長はそれほどまれなことではないと推測。
しかし、大木になるまでに育つものは多くは無いのかと、そこにスペースは無いし。
話はそれるが、現地ガイドが教えてくれ、フタバガキとわかったが、自分ではよくわからなかった。
実が付いていないと、なんとなくフタバガキな感じはするけども、最後まで確信を持てることはなかった。
7、フタバガキの実は、種類により、大きさと形がさまざま。
実から翼の先の部分までの長さが4㎝ほどの極小サイズから、25㎝位になりそうな大きなものまで。
現地で探したもののうち、一番多かったのは、実から翼の先まで10センチ程度の長さのもの。
翼そのものの形、細長い、やや太め、長め、
翼の数、2枚、3枚、4枚、5枚、
種の形、丸に近い、細長い、大きい、
など、見ただけでも、全然雰囲気が違います。
翼の形状と数(長い翼と短い翼の数、または、すべて同じ長さの翼のパタンなど色々)でフタバガキの属を知ることができます。
ボルネオ島だけで約260種もの種類が、
フタバガキにあるのですが、
実際に森には、多数の種の実が落ちていました。
実がクルクル回る、翼の不思議
現地で、実際に実がくるくると、プロぺラが回るように落ちてきているのを最初に見た時は、
スピードがあまりなく、意外に遅いことに気づきました。
写真が撮れるスピードでした。
でも、よくみたら、実が取れてしまっていて翼だけが回転して落ちてきていたのです。
そんなこともあり、
急に翼の部分が何で出来たものなのか気になってきました。
実が落ちてくるのはいつも突然です。
木がそばに無いので、
急に空から降ってくる感じです。
強風が吹いて落ちてきた感じはなかったです。
翼の部分は、
資料を読んではいたのですが、
まったく頭に定着しておらず、
詳しい方にお尋ねして、教えていただきました。
その後、
持ってきていた資料を読み返したら、
いろいろ書いてありました。
“がくも花びらも5枚ですが、がく片が、花が咲いた後に大きくなりフタバガキの特徴的な、翼になります。”
という事で、翼は「がく」が伸びたものだったのです。
winged calyx(ウイングド カリクス)と、
英語では名前があって、
私は植物名の英名⇔和名は不勉強で知識が不足してるので、
翼がく(よくがく)いう言葉を勝手に作っていましたが、
実際にフタバガキの実は、偽翼果(ぎよくか)と日本語ではいいます。
果皮の一部が翼状に発達した果実を翼果といい、
フタバガキは果皮でなく、がくが発達したものなので、ニセの翼果ということになります。
今回、初めて知りました。
フタバガキの学名 Dipterocarpus
ラテン語のフタバガキの学名をカタカナ読みで書くと、
ディプトロカルプス、
とおよそ読みますが、
ディ→2つ、プトロ→翼、カルプス→実、
の3つの言葉からなり、
「2つの翼をもつ実」と、
この種子の形が由来となって名付けられています。
フタバというのは、2枚のみのが長く伸びる種をみて、名前をつけたのでしょうか?
それとも、本当に2枚が伸びる種の方が多いのでしょうか?
今回私たちが一番よくみたのは、5枚の均等のサイズの翼で、実が他に比べてまんまるのフタバガキでした。
タワーからフタバガキの実を落とす実験
ざっくり10種位の実をひろい、
観察のためのタワー(20メートル位の高さ)から全部、種を落として見ました。
どんなふうに落ちるのか、そして種類によって落ち方も違うだろうと思ったので試しました。
その結果、一番よくみた5翼均等の実がもっとも、美しくクルクルとゆっくり回って落ちていきました。
ただ、今考えると、既に落ちた実を拾っているので、
実の乾燥も進み、
実際の実の落ちるのの再現にはならなかったかもと。
ただの好奇心、遊びなので、十分満足、楽しい時間をすごしました。
2翼のものは、ほぼ真下に落下し、そのスピードも速かった。
でも小さくても、クルクル回ります。
どの翼のタイプでも回転して、落下しました。
もともと、この翼があって、
クルクル回ることで、実への落下時の衝撃を和らげていると本には書いてありますが、
そんなに落下時の衝撃が実に打撃を与えるのか素朴な疑問。
樹高が高いから、そうかもしれませんが、それよりも遠くに飛ばすためではないかと思いました。
フタバガキ一斉開花の予測
今回、ガイドと色々話していて、興味深かったのは、
今年の2月頃に、一斉開花すると感じたと言います。
去年からひどく乾燥が続き、
そんな感じがしたんだそうです。
やはり毎日ジャングルにいる人は違う。
肌で感じるんだと。
3月に入り、今回の一斉開花は大規模だぞ!と確信したと言います。
もともと植物に全く興味はなかったそうですが、
鳥を観察、撮影していたら、
双眼鏡やカメラでフタバガキの花や実を見る機会があり、
徐々に樹にも、
森にも興味を持つようになり、
いろんなことが見えてきたと。
こういう話を聞くとワクワクします。
興味が広がると、世界が広がって、
今まで見えなかったものが、見えてきます。
私も、植物、虫、地学などはそんな感じです。
森に入って、
樹木のことが、もっとわかるように、感じられるようになりたいと思っています。
その彼が、泥の場所での発芽個体も見つけていました。
私は泥で足元が悪いことに気を取られ気づいていませんでした。
観察する力が足りないなぁと、反省。
足場が悪いとそちらに気を取られがちですが、
条件が違う場所で、探すべきだったと、次回の参考にします。
次のフタバガキの開花が待ち遠しい
大規模一斉開花は、10年に一度くらいですが、
小規模なら4、5年に1度と聞いています。
次は、翼がまだ色づいて、黄、赤、緑、クリーム色など色とりどりで美しい時に、
キャノピータワーがある場所で近づいて観察したいと思います。
今年は現地の森の関係者の皆さんは、この一斉開花をお祭りのように、楽しんでいると聞きました。
現地ガイドと、同行者の方と、
フタバガキの実を探して、ひろって、観察して、一緒に楽しんで、
楽しい旅でした。
大人の遠足でした。
また、次回咲いたら、ピュッと行くことにしますので、
興味のある方は、お知らせください。
熱帯雨林の森を一緒に楽しみましょう!
注)文中、「フタバガキ」と書いたものは、フタバガキ科のフタバガキ属の植物の総称で用いたつもりで使いました。
「マングローブ」が汽水域の植物の総称として言われているのと同じ感じで使っています。
科、属、種などの分類について知りたい方は、ネットで検索してください。