タンザニアのセレンゲティでサファリをしていた。急な土砂降りの中、ゾウの群れに遭遇した。
10頭ほどの群れで、その中に小さな子どもが2頭いた。
車は止まった。
こちらは何もしていない。ただ、そこにいた。
でも群れに緊張が走り、
一頭が前に出て、パオーン、と鳴いた。
その音は、車の窓を全部閉めていたのに、はっきり聞こえた。
ゾウが「パオーン」と鳴くのを聴くことは、サファリ中ではほとんどない。
だからこそ、そのひと声の意味ははっきりしていた。
「来るな」
完全に威嚇された、そう感じた。
その時の状況はこうだ。
鳴いた個体が、1、2、3、4、5、6歩とこちらに向かって突然勢いよく走ってきた。
走ってくる前後でゾウの尾が、ピンと立っていた。
しかも横に張るように。
周りの個体も、同じような尾をしていた。
耳は大きく広がり、ばふばふと動く。
向かってきた個体の頭はやや低く構えていた。
こちらは止まったまま、動いていない。
車の中にいても身動きできなかった。
すると、こちらに真っ直ぐ向かってきていたそのゾウがすっと横に方向転換した。何事もなかったかのように。
そして群れ全体が、さらさらと流れるように道路を渡っていった。

威嚇した個体は渡った先から、今度は頭を上げてこちらを見ていた。
「そこにいろよ」
と言われてるような気がした。
私たちはただ止まって見ていた。
それで終わった。
あとから何度も動画を見返した。
尾が立って、横に張っている。
あれは怒りだったか? 違う気がした。
あのとき、かなり雨がひどかった。
視界は落ち、音も聞こえにくかったはず。私たちの車が近づいた事に気づいたのがいつもより遅くなったのかもしれない。
サファリカーが突然きたような状況になり、小さい子どもを連れていたから緊張が一瞬走ったのではないか。
いつもならこの程度の距離感で、なおかつどこにでも行けそうな場所で群れに近づいても、今回のように緊張感が走ることはまずない。
今回は強い雨のせいで、特別な状況下となり、しっかり意思表示をしてきたのかもしれない。
「ここで止まれ」
そう伝えているかの様だった。こちらが止まっているのを確認しながらゾウは通っていった。
あれはあきらかな威嚇ではあったけど、攻撃ではなかった。
ゾウは怒っていたのではなく、
状況を測っていたと感じている。
雨の中で交わした、ゾウとの短いやり取り。印象的な体験だった。

